商標:拒絶理由通知への対応(第8回)

第8回:最後の一手か、最初の一手か
——コンセント(同意書)制度のリアル

 商標実務の世界に、大きな変革が訪れました。令和6年(2024年)4月より導入された「コンセント制度(同意書制度)」です。 これまでは、他人の先願商標と似ていれば「原則として登録不可」という非情なルールでしたが、新制度では「相手が認めてくれるなら、共存してもいいですよ」という柔軟な道が開かれました。
 今回は、この新制度の本質と、避けては通れない「交渉」の実態について解説します。
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1.コンセント制度とは何か:共存への新しいルート
(1)制度の概要
 コンセント制度とは、先行商標権者の「同意」がある場合に、類似する商標であっても例外的に登録を認める仕組みです。これまで「似ているから諦めるしかない」と絶望していたケースでも、当事者間での合意(共存合意)があれば、ブランドを守り続けることが可能になりました。
(2)どの場面で使うのか
 主なターゲットは、商標法第4条第1項第11号(他人の類似商標)で拒絶された場合です。「法律上は類似しているとされるが、実際の商品分野や販売ルートが違うため、市場で混同は起きない」という実情がある場合に非常に有効な手段となります。
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2.制度の本質——「法律」ではなく「交渉」
 この制度の核心は、審査官を説得するロジックではなく、先行商標権者との「合意形成」にあります。
(1)発想の転換
 審査官に「似ていません」と訴えるだけでは足りません。相手方にコンタクトを取り、「お互いのビジネスを邪魔しない形で共存しませんか」という提案を持ちかける必要があります。
(2)現実の難しさ
 しかし、現実は甘くありません。相手からすれば「なぜ競合(あるいは見知らぬ企業)に、わざわざ自分の権利を弱めるような同意を与えなければならないのか」と考えるのが通常です。無償で快諾してくれるケースは稀であり、連絡先を突き止める段階からハードルが高いことも少なくありません。
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3.交渉の進め方:実務のリアル
 成功させるためには、緻密なアプローチ設計が不可欠です。
• 相手の不安を消す材料を提示する: 「私たちはこのターゲット層にしか売りません」「ロゴのデザインはこう変えます」といった、具体的な混同が生じない理由を丁寧に説明します。
• 条件交渉の具体例: 「一定のライセンス料(対価)を支払う」「特定の地域や商品範囲では使用しない」といった条件を提示し、相手にとってのメリットや安心感を作り出します。
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4.同意書があれば必ず通るのか?
 ここが重要な注意点ですが、同意書は「万能薬」ではありません。 最終的な判断は特許庁(行政側)が行います。たとえ当事者が合意していても、あまりに商標が酷似していて消費者が大混乱に陥るようなケースでは、公益を守る観点から依然として拒絶される可能性があります。
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5.使うべきか、引くべきかの判断基準
 コンセント制度は「強力な武器」ですが、コストもかかります。
• 適しているケース: どうしてもその名前でなければビジネスが成り立たない、かつ相手方が交渉に応じる余地がある場合。
• 避けるべきケース: 相手が直接の競合企業で拒絶が予想される場合や、まだブランド名を変えてもダメージが少ない事業初期段階。
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6.他の手段との比較:最適なカードはどれか
 拒絶への対応には、他にも選択肢があります。
• 補正:衝突を物理的に「避ける」手段。スピード重視ならこちら。
• 不使用取消審判:相手の権利を「崩す」攻めの手段。相手が商標を使っていないなら有効。
• コンセント:相手と「共存する」唯一の手段。ブランド維持を最優先する場合に選びます。
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7.まとめ
 今回のポイントを整理します。
• 本質:コンセント制度は、法律論ではなく「交渉力」が問われる制度である。
• 戦略:コスト・時間・成功確率を天秤にかけ、専門家と共に「相手の立場」に立った交渉プランを練ること。
 中小企業にとって、守りたいブランドを救う「最後の一手」となるこの制度。安易な接触は逆効果になることもあるため、まずは専門家と共に戦略的なアプローチを検討することをお勧めします。


本記事についてのご相談: 「拒絶理由通知」「拒絶査定」が届いてしまったが、まだ諦めたくない方は、ぜひ一度ご相談ください。勝ち筋のある戦略を提案いたします。

2026年05月01日