商標:拒絶査定不服審判(第5回)
第5回 「似ている」と言われても諦めない
~審判では何が判断されるのか~
前回は、「拒絶査定不服審判」を請求するかどうかは、「勝てるか」だけではなく、「ブランドとしての価値」や「事業への影響」を踏まえて判断すべきであることをご説明しました。
今回は、実際の審判で最も多い拒絶理由である「商標の類似」について見ていきます。
「先に似た商標が登録されています。」
この理由で拒絶査定を受けた経験のある方も少なくないでしょう。しかし、ここで知っていただきたいことがあります。
「似ている」と判断された商標が、審判で登録になった例は少なくありません。
「似ている」とは誰が決めるのか
商標が似ているかどうかは、見た目だけでは決まりません。
商標審査では、
・見た目(外観)
・呼び方(称呼)
・意味(観念)
という三つの観点から総合的に判断されます。
例えば、文字の一部が同じでも、読み方が全く異なれば混同のおそれは小さいかもしれません。逆に、文字が違っても読み方が同じであれば、類似と判断されることがあります。
つまり、「一文字違うから大丈夫」「ロゴが違うから安心」という単純な話ではないのです。
審判では何を見直すのか
「拒絶査定不服審判」では、「本当に商標は似ているのか。」という点について改めて審理が行われます。
例えば、「審査では見落とされていた読み方がある。」「一般の需要者は別の意味として理解する。」「文字全体から受ける印象は大きく異なる。」「指定商品・指定役務の内容から見ても、誤認のおそれは小さい。」
このような事情を具体的に説明することで、審査官とは異なる判断が示されることがあります。
「一部分だけ」を見てはいけない
審判でよく問題となるのが、「商標全体をどのように見るか」という点です。
例えば、商標の一部に共通する文字があるとしても、それだけで直ちに類似とはいえません。需要者は通常、商標全体を見て商品やサービスを識別します。
そのため、「全体の語感」、「文字列の長さ」、「語尾の違い」、「全体として受ける印象」なども重要になります。
商標は「部分」ではなく、「全体」で判断するという考え方が基本なのです。
思い込みで判断しない
相談を受けていると、「一文字しか違わないので無理ですよね。」という声を耳にすることがあります。
一方で、「ロゴを変えたから登録できますよね。」という期待を持たれる方もいます。
しかし、どちらも必ずしも正しいとはいえません。
実際の審判では、一文字しか違わなくても非類似と判断された例があります。逆に、見た目がかなり違っても、呼び方や意味が共通すると類似と判断された例もあります。
商標の類否判断は、思っている以上に奥が深いのです。
専門家は「違い」を見つける仕事
拒絶査定を受けると、多くの方は、「似ていると言われたのだから仕方がない。」
と考えてしまいます。
しかし、弁理士は、「どこが異なるのか」「その違いは需要者にどのような印象を与えるのか」「混同のおそれは本当にあるのか」、こうした点を整理し、法律的な根拠とともに主張していきます。
単に「違います」と主張するだけでは、審判では認められません。
審判官を納得させる論理と証拠が求められるのです。
おわりに
「類似商標だから登録できない。」これは半分正しく、半分誤解でもあります。重要なのは、本当に法律上「類似」といえるのかを丁寧に検討することです。
「拒絶査定不服審判」では、その判断を改めて見直してもらう機会があります。もちろん、すべての案件で結論が変わるわけではありません。
しかし、審査段階では十分に伝えられなかった事情を整理し、説得力のある主張を行うことで、登録への道が開けることもあります。
次回は、「識別力がない」として拒絶された商標が、審判で登録となったケースを取り上げます。
「ありふれた言葉だから登録できない」と思われがちな商標について、審判ではどのような考え方が採られているのかをご紹介します。