開業準備(第9回)事業運営におけるリスク管理

第9回: 事業運営におけるリスク管理
 事業を開業する際、夢と情熱だけで突き進むのは素晴らしいことですが、成功を持続させるためには冷静なリスク管理が欠かせません。事業を長期的に安定して運営するためには、さまざまなリスクに備えて対策を講じることが必要です。本稿では、開業時に特に考慮すべきリスクとその対策法について、財務、法務、知財、労務といった観点から解説します。

1. 財務リスク
 財務リスクは、事業運営の安定性に直結する重要なリスクです。開業初期は、収益がまだ安定していない中で、経費や資金調達に対する対応が求められます。資金がショートすることで事業が立ち行かなくなるケースは少なくありません。
1.1 資金繰りの管理
 資金繰りは、事業運営の生命線です。収入が不安定な時期には、支出を最低限に抑える必要があります。特に以下の点に注意しましょう。
 • 運転資金の確保
 事業が軌道に乗るまでの間、最低限の資金を確保しておくことが必要です。一般的に、半年から1年分の運転資金を確保するのが理想です。
 • キャッシュフローの管理
売上や支出のタイミングを綿密に管理し、キャッシュフローを健全に保つことが重要です。予期せぬ出費に備え、余裕を持った財務計画を立てましょう。
 • 助成金や融資の活用
 開業時には、各種助成金や補助金の利用が可能な場合があります。また、融資の選択肢も検討しましょう。特に政府系金融機関や地方自治体の制度を活用することで、低金利や無利子の融資を受けることができる場合があります。
1.2 コスト管理
 コストが予定以上に膨らむと、すぐに資金が底をつく可能性があります。予算を策定し、実際の支出と照らし合わせて常に見直すことが重要です。
 • 固定費の見直し
 賃料や従業員の給与などの固定費は、容易に削減できません。開業前に必要な費用を厳密に試算し、コストパフォーマンスの高い選択をすることが求められます。
 • 変動費のコントロール
 原材料費や消耗品費などの変動費は、購入量や仕入れ先の選定によって調整が可能です。定期的に仕入れ先を見直し、より安定した供給元を確保することがコスト削減につながります。

2. 法務リスク
 法務リスクは、法規制の違反や契約トラブル、知的財産の侵害などが主な例です。事業の運営において法的なトラブルは非常に大きな損失をもたらします。特に、開業初期の小規模事業者にとっては致命的となる場合もあります。
2.1 契約管理
 取引先との契約や従業員との労働契約は、事業を運営する上で必須です。契約書をきちんと作成し、双方の責任や義務を明確にしておくことで、後々のトラブルを回避できます。
 • 契約書の確認と作成
 契約書は、法的に有効な文書として、後々の紛争を避けるために非常に重要です。契約内容を十分に確認し、不明な点があれば専門家に相談しましょう。
 • 弁護士との連携
 法務リスクに対しては、事前に弁護士と連携し、トラブル発生時に迅速に対応できる体制を整えることが理想です。また、定期的に契約書の見直しを行い、法改正に対応した形で運用していくことも大切です。
2.2 法規制の遵守
 事業を行う際には、業種ごとに定められた法規制に従う必要があります。特に飲食業や風俗営業など、特定の許認可が必要な業種においては、法的手続きを怠ると営業停止などの重いペナルティを受けることがあります。
 • 許認可の取得
 業種に応じて必要な許可や届出を事前に確認し、忘れずに手続きを行いましょう。飲食店の場合、食品衛生法に基づく営業許可や、風営法に基づく許可が必要になる場合があります。
 • コンプライアンスの徹底
 法令遵守のための社内ルールを整備し、従業員にもその重要性を周知徹底しましょう。特に、労務管理や個人情報保護に関する規制が厳しくなっているため、これらのルールを守ることが信頼構築に繋がります。

3. 知的財産リスク
 知的財産リスクは、特にブランドや商品デザイン、ビジネスモデルに関わる分野で発生します。競合他社との間で商標権や著作権の侵害に関するトラブルが発生することもあります。
3.1 商標登録
 開業時に使用する屋号やロゴ、商品名などが他社の商標権を侵害していないか確認することが重要です。商標権を侵害すると、損害賠償請求や販売停止を求められるリスクがあります。
 • 事前の商標調査
 新しいビジネスを立ち上げる際には、商標登録の専門家である弁理士に依頼して、事前に他社の商標を調査することが推奨されます。また、自社のブランドを保護するために、可能であれば商標登録を行いましょう。
 • 著作権と特許の管理
 自社が開発したオリジナルのコンテンツや技術が他社に模倣されないよう、著作権や特許権の管理も重要です。特許出願などを適切に行い、自社の知的財産を保護しましょう。
3.2 インターネット上のリスク
 インターネットを活用したビジネスでは、ウェブサイトやSNSでの発信内容に著作権やプライバシーの侵害リスクが伴います。
 • 適切なコンテンツ使用
他社の画像や文章を無断で使用しないことが大切です。商業利用の場合、特にライセンス契約や使用許諾を得た上での利用が必要です。

4. 労務リスク
 労務リスクは、従業員の雇用や労働条件に関わるトラブルです。ブラック企業として扱われるリスクや、労働基準法違反による罰則を回避するためには、適切な労務管理が欠かせません。
4.1 労働契約と労働条件の整備
 従業員を雇う場合、雇用契約書を作成し、給与や労働時間、福利厚生などの条件を明確にすることが必要です。曖昧な契約内容は後々のトラブルの原因となるため、初めから具体的に定めておくことが重要です。
 • 就業規則の整備
 常時10名以上の従業員を雇用する場合、就業規則の作成と届け出が義務付けられています。労働時間、休暇、賃金などについて、法令に準拠した内容に整備する必要があります。
 • 働き方改革への対応
 日本では働き方改革が進行中であり、特に労働時間の管理や時間外労働の適切な処理が求められます。タイムカードや勤怠管理システムを導入し、正確な勤務実績を把握することが重要です。
4.2 ハラスメント対策
 職場でのハラスメントは、従業員の士気を低下させるだけでなく、法的なトラブルを引き起こす可能性があります。セクハラやパワハラを防ぐための社内ルールを整備し、従業員に対する教育を徹底しましょう。

5.まとめ
 事業運営におけるリスク管理は、単にリスクを避けるだけではなく、リスクを把握し、適切に対応するための計画を立てることが重要です。事前にしっかりと対策を講じることで、事業が安定し、持続的に成長するための基盤を築くことができます。

2024年10月08日