開業準備(第14回)「個人事業主」か「法人」かの選択と各法人の特徴

第14回:「個人事業主」か「法人」かの選択と各法人の特徴


 事業を開業する際に、最初に決定しなければならない重要な選択肢の一つに、「個人事業主」として活動するか、それとも「法人」を設立するかという点があります。この選択は、将来的な経営方針や税制、責任の範囲に大きな影響を及ぼすため、慎重に検討する必要があります。
本稿では、まず「個人事業主」と「法人」の基本的な違いを説明した上で、それぞれのメリットとデメリットを整理し、さらに法人格の種類やそれぞれの特徴について解説します。


1. 「個人事業主」と「法人」の基本的な違い
1.1 個人事業主とは
個人事業主は、文字通り個人が単独で事業を営む形態です。法的な設立手続きが簡単で、開業届を税務署に提出するだけで事業を開始することができます。特別な法人登記も不要で、経理や税務処理が比較的簡便である点が大きな特徴です。
1.2 法人とは
一方、法人は法律上、個人とは別の「人格」を持つものとみなされます。つまり、法人は個人事業主とは異なり、会社名義で契約を行い、資産や負債も法人として所有します。このため、法人には様々な種類がありますが、共通する特徴は、法人と個人が法的に独立している点です。

2. 個人事業主と法人のメリット・デメリット
個人事業主のメリット>
 1. 設立手続きが簡単
 法人を設立するには登記や定款の作成などが必要ですが、個人事業主の場合、税務署に開業届を出すだけで簡単に事業を開始できます。初期費用や手間が少なく、手軽にスタートできるのが魅力です。
 2. 経理が簡便
法人に比べて、個人事業主は経理が簡単です。税務申告においても、個人事業主は「青色申告」や「白色申告」など、選択肢が広く、税務署からの指導も比較的受けやすいです。
 3. 利益が少ない場合の税負担が軽い
事業が小規模で利益が少ない場合、個人事業主は累進課税制度により、低い税率が適用されるため、税負担が軽くなります。
<個人事業主のデメリット>
 1. 責任が無限大
 個人事業主は、事業に関するすべての責任を個人が負います。事業が失敗して多額の負債を抱えた場合でも、個人の財産で責任を負うことになります。破産しても個人の生活にまで影響が及ぶ可能性があります。
 2. 信用力が低い
 法人に比べて、個人事業主は外部からの信用力が劣ることがあります。特に大口の取引先や金融機関から融資を受ける際に、不利になることがあります。
 3. 節税の余地が限られる
 個人事業主は、節税の手段が法人に比べて限られています。法人であれば役員報酬や経費の計上に柔軟性があり、法人税の枠内で節税対策が可能です。
<法人のメリット>
 1. 責任が有限
 法人の場合、事業の責任は法人自体が負います。つまり、個人と法人が法的に分離されているため、事業の負債が個人に影響を及ぼすことはありません。これにより、事業に失敗した際にも、建前としては、個人財産を保護することができます。しかし、小規模な企業が金融機関から融資を受ける際には役員が個人として保証をすることが多いため、実際には個人事業主と同様、役員個人が責任を負うこととなります。
 2. 信用力が高い
 法人は法的な裏付けがあるため、外部からの信用が高くなります。これにより、大規模な取引や融資を受けやすくなることが多いです。
 3. 税務上のメリット
 法人は、利益に応じた法人税が課せられますが、役員報酬や経費として様々な支出を合法的に計上できるため、個人事業主よりも税金対策がしやすいです。さらに、法人は税率が一定であるため、利益が増えると個人よりも税負担が軽くなる場合があります。
 4. 事業継承が容易
 法人の場合、株式を譲渡することで比較的簡単に事業を引き継ぐことが可能です。事業の成長や継続を計画している場合、法人の方が後継者に対してスムーズに引き継げるでしょう。
<法人のデメリット>
 1. 設立手続きが複雑で費用がかかる
 法人を設立するには、定款の作成、登記、印紙代などが必要で、個人事業主に比べて初期費用がかかります。さらに、毎年定期的な決算報告や法人税の申告も必要となり、経理や事務作業が複雑化します。
 2. 維持コストが高い
 法人を維持するためには、税務申告や決算書の作成、社会保険への加入などが必要です。これに伴い、経費が個人事業主よりも多く発生し、一定の規模に達しないと費用対効果が低くなる場合があります。
 3. 事業が小規模の場合は不利
 利益が少ない場合、法人税や事務コストが重くのしかかることがあります。特に、法人としての規模に達していない小規模事業では、個人事業主の方が適していることもあります。

3. 法人格の種類と特徴
 法人には様々な種類があり、それぞれに異なる特徴とメリット・デメリットがあります。ここでは、主な法人形態である「株式会社」、「合同会社」、「一般社団法人」「特定非営利活動法人」の特徴を紹介します。
<株式会社>
 特徴
 株式会社は、株式を発行して資金を調達することができ、一般的に最も広く知られている法人形態です。多くの企業がこの形態を採用しており、株主が出資者となり、取締役会を通じて経営が行われます。
 メリット
 • 社会的信用が高い
 株式会社は最も社会的な信用度が高い法人形態であり、取引先や銀行などから信頼されやすいです。
 • 資金調達が容易
 株式を発行することで、資金を調達しやすく、事業拡大を目指す際に有利です。
 • 経営者の交代が柔軟
 株式を譲渡することで経営権を移譲できるため、事業継承が比較的容易です。
 デメリット
 • 設立や維持コストが高い
 定款認証や登記手続きが必要で、さらに株主総会や取締役会の開催義務があるため、運営コストが高くなります。
 <合同会社(LLC)>
 特徴
 合同会社は、比較的新しい法人形態で、設立コストが低く、柔軟な経営が可能です。出資者全員が経営に参加する点で、株式会社とは異なります。
 メリット
 • 設立コストが安い
 株式会社に比べ、定款の認証が不要で設立費用が安価です。
 • 柔軟な経営が可能
 出資者全員が経営者として参加できるため、迅速な意思決定が可能です。
 デメリット
 • 社会的信用が低い
 まだ知名度が低いため、株式会社に比べて社会的な信用力に欠ける場合があります。ただし、外国有力企業の日本国内法人には合同会社が比較的多くみられます。
<一般社団法人>
 特徴
 営利を目的とせず、社会的な活動を行うための法人形態です。利益を分配せず、社会貢献を主目的としています。
 メリット
 • 非営利活動に適している
 営利を目的としない活動に適しており、社会的な信用を得やすいです。
 • 税務優遇措置がある
 一定条件を満たすと税務上の優遇措置が受けられます。
 デメリット
 • 営利活動に制約がある
 営利を目的としないため、事業の収益性には限界があります。
<特定非営利活動法人(NPO法人)>
 特徴
 利益を社員や役員に分配することができません。得た収益は、法人の活動資金として再投資されます。社会の公益を目的として、教育、環境、福祉、地域社会の発展などに貢献することが求められます。
 メリット
 • 社会的信用が高い
 営利を目的としない法人として運営されるため、社会的な信頼が高いです。
 • 設立が比較的簡単
 株式会社に比較して要件は緩く設立費用も低めです。特定非営利活動促進法に基づき、都道府県または内閣府への申請で設立が可能です。
 • 税制優遇がある
 一定の条件を満たすことで税制上の優遇措置を受けることができ、「認定NPO法人」になるとさらに大きな税制優遇があります。
 • 助成金や寄付を受けやすい
 地方自治体や国、民間財団などから助成金や寄付金を得ることが可能です。
 デメリット
 営利を目的とした事業活動を自由に行うことができません。たとえ収益を得たとしても、それを役員や社員に分配することはできず、事業に再投資しなければなりません。
 • 資金調達が難しい
 株式の発行ができません。銀行からの融資も難しく、寄付や助成金に依存することが多く、安定的な資金調達が難しい点は大きな課題です。
 • 人材確保が困難な場合がある
高い給与を支払うことが難しいため、優秀な人材を確保するのが難しくなることがあります。
 • 運営や事務手続きが煩雑
 毎年事業報告や財務報告を行う義務があります。これらの報告書は、所轄庁に提出され、公開されることが義務付けられています。
 • 認定NPO法人取得の難しさ
 「認定NPO法人」となると寄付者に対して税制優遇を与えられますが、この認定を取得するためには厳しい要件を満たす必要があります。

4. まとめ
 「個人事業主」か「法人」かの選択は、事業の規模や目的、将来的なビジョンに大きく影響を及ぼします。事業規模が不明な場合は、まず、個人事業主としてスタートして、事業が軌道に乗った段階で「法人成」する方法もあります。
 自治体商工会議所などの相談窓口や、信頼できるコンサルタントに相談することをお薦めします。

2024年10月12日