水際対策第7回:水際対策におけるインターネット上の知的財産侵害への対策

第7回 水際対策におけるインターネット上の知的財産侵害への対策
 インターネットの普及により、模倣品や知的財産の不正利用がオンライン上で拡大しています。中小企業が効果的な水際対策を行うためには、ネットショッピングサイトやSNSなどで発生する知的財産侵害への対応が重要です。本稿では、ネットショッピングサイトでの模倣品販売への対策、SNSでの不正利用への対応、著作権侵害に対する差止請求やDMCA通知などの法的措置の活用方法について解説します。
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1. ネットショッピングサイトでの模倣品販売への対策
 ネットショッピングサイト上で模倣品が販売されることは、ブランド価値や売上に深刻な影響を与える可能性があります。以下に、具体的な対策を紹介します。
1. ブランド保護プログラムへの登録
 多くの大手ネットショッピングプラットフォームは、知的財産権を保護するためのプログラムを提供しています。
• Amazon Brand Registry: 商標登録済みのブランドが利用可能で、模倣品販売者の特定や削除を迅速に行えます。
• Amazonマーケットプレイス 知的財産権の侵害: 商標権、著作権、特許権などの権利者が、侵害品の削除を申請できます。
• 楽天市場 知的財産権保護プログラム: 商標権や著作権を持つ権利者が、侵害品の削除を依頼できる仕組みです。
• Yahoo!ショッピング 知的財産権侵害に関するヘルプ: 商標権、著作権、意匠権などの侵害申告を受け付けています。
• eBay VeRO (Verified Rights Owner) Program: 著作権、商標権を持つ所有者が侵害品の削除を依頼できる。
• Alibaba IP Protection Program: 模倣品に対する通報を迅速に処理する仕組み。

項目 Amazon Brand Registry Amazonマーケットプレイス
主な目的 登録ブランドの知的財産権保護とブランド管理・強化 様々な事業者が商品を販売・購入できるプラットフォームの提供(侵害品対策は一部)
対象 商標登録済みのブランドを持つ事業者(権利者) Amazonで商品を販売するすべての事業者(出品者)、およびAmazonを利用するすべての購入者
主な機能
(侵害品対策)
迅速な侵害報告・削除、自動侵害検出、透明性プログラムなど 知的財産権侵害の報告機能(一般)、出品規約、購入者からの報告、Amazonによる監視など
利用条件 有効な商標登録証が必要 Amazonの出品者アカウントが必要

 

2. 模倣品販売者の特定と通報
• 定期的な監視: 商品ページを定期的にチェックし、模倣品の存在を確認。
• 侵害商品の通報: プラットフォームの通報機能を活用して、迅速に模倣品を削除。
3. 法的措置の準備
• 証拠の確保: 販売ページのスクリーンショットや購入記録を保存し、侵害の証拠を収集。
• 弁護士・弁理士との連携: 必要に応じて、知的財産に詳しい弁護士や弁理士を通じて販売者に対して法的措置を取る。
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2. SNSでの不正利用への対策
 SNSはブランドの宣伝に役立つ一方で、不正利用や模倣品販売の場ともなり得ます。以下はSNS上での対応策です。
1. ブランド監視ツールの活用
• ツール: 国内のソーシャルリスニングツールや、HootsuiteやBrand24などのツールを活用して、自社ブランド名や商標が不正に使用されている投稿を監視します。
• 通知設定: キーワードアラートを設定し、不正利用を迅速に発見できるようにします。
2. プラットフォームへの通報
• 著作権侵害の通報: (X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、LINEなど)では、著作権侵害や商標侵害に対する通報フォームを用意しています。
• アカウント停止: 模倣品販売を行うアカウントに対して停止措置を依頼します。
3. ファンコミュニティとの連携
• ユーザーとの協力: ブランドを支持するファンからの情報提供を活用。
• 正規品情報の発信: SNSを通じて正規品の購入方法や注意喚起を行い、消費者の誤認を防止します。
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3. 著作権侵害に対する差止請求など法的措置の活用
 デジタル環境下での知的財産保護には、法的措置の活用が不可欠です。特に著作権侵害に対しては、著作権法に基づく差止請求などが有効な手段となります。
1. 著作権侵害に対する差止請求の仕組み
• 対象: 無断で複製・頒布・公衆送信などを行う行為に対して、その行為の停止を求める手続きです。
• 請求先: 侵害行為を行っている者に対して行います。
• 必要事項: 著作権の存在を示す証拠、侵害行為の内容を示す証拠、差止めの必要性を示す情報などが必要です。
2. 差止請求の手順
• 侵害コンテンツの特定: 不正に利用されている画像、動画、文章などを特定し、証拠を保全します。
• 警告書の送付: 弁護士を通じて、侵害行為者に対して著作権侵害を警告し、行為の停止を求めます。
• 差止請求訴訟の提起: 警告に応じない場合、裁判所に対して差止請求訴訟を提起します。
3. その他の法的措置
• 損害賠償請求: 著作権侵害によって被った損害について、侵害行為者に対して賠償を請求することができます。
• 刑事告訴: 悪質な著作権侵害に対しては、刑事告訴を検討することも可能です。
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4. DMCA通知など法的措置の活用
デジタル時代において、法的措置を活用して知的財産を守ることが重要です。その中でも、DMCA (Digital Millennium Copyright Act) 通知は強力な手段です。
1. DMCA通知の仕組み
• 対象: 著作権侵害の疑いがあるコンテンツを削除するための手続き。
• 提出先: サイト運営者やホスティングプロバイダーに通知を送付。
• 必要事項: 著作権所有者情報、侵害対象の特定情報、削除要求の根拠。
2. DMCA通知の送付手順
1. 侵害コンテンツの特定: 不正利用されている画像、動画、テキストを確認。
2. 通知の作成: 所有権を証明する情報を含めた通知を作成。
3. 送付: サイト運営者または該当プラットフォームに通知を送付。
4. フォローアップ: 要求が受理されたか確認し、必要に応じて再度対応を依頼。
3. グローバルな法的措置
• 地域別のルール: DMCAはアメリカ法ですが、他国でも類似の法制度が存在。各国の規制に応じて対応。
• 弁護士の活用: グローバル対応が必要な場合は、現地の法律専門家と連携。
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まとめ
 インターネット上の知的財産侵害は、中小企業にとって深刻なリスクとなり得ます。しかし、プラットフォーム提供の保護プログラムを活用し、DMCA通知や法的措置を適切に行うことで、効果的な水際対策を実現できます。また、SNSやネットショッピングサイトでの監視と迅速な対応が、ブランドの価値を守る鍵となります。
 企業の規模に関わらず、専門家のアドバイスを受けながら、オンライン上の知的財産保護戦略を強化してください。

2025年03月21日