商標:拒絶理由通知への対応(第5回)
第5回:「公序良俗」の壁——商標法第4条第1項第7号への対応
商標審査において、最も抽象的で、かつ強力なハードルの一つが「公序良俗(公の秩序又は善良の風俗)」に反するという指摘です。拒絶理由通知書に「商標法第4条第1項第7号」が登場した場合、それは単なる似ている・似ていないの議論ではなく、その商標を登録させることが「社会的に妥当ではない」と判断されたことを意味します。
今回は、この掴みどころのない「公序良俗の壁」の正体と、その処方箋について解説します。
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1.「公序良俗」とは何か——社会の良識が基準
(1)概念の特徴:あえて引かれない境界線
公序良俗は、時代の変化や国民の感情によって刻々と変化する「社会通念」を基準としています。そのため、法律に明確な数値や条件があるわけではなく、一件ごとに個別判断(ケースバイケース)されるのが最大の特徴です。
(2)他の拒絶理由との違い:対個人ではなく「対社会」
第11号(他人の商標との類似)が「特定の人との衝突」を問題にするのに対し、第7号は「社会全体に対して不適切ではないか」という価値判断が中心となります。いわば、ブランドの「品格」や「道徳性」が問われているのです。
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2.典型的な問題類型
どのような場合に「公序良俗違反」とされるのか、実務上は主に以下の3つに分類されます。
1. 不快・不適切な表現 卑俗、差別的、あるいは歴史的事件や特定の団体を侮辱するような構成です。これらは「一般に不快感を与える」として、時代背景を鑑みて厳しく判断されます。
2. 著名な他人の氏名等 タレントや歴史的人物、著名な他人の氏名を無断で出願するケースです。これは他人の人格的利益を害したり、その人の信用に「ただ乗り(フリーライド)」したりするものとして、不登録の対象となります。
3. 不正な目的による出願 他人のビジネスを妨害するため、あるいは法外なライセンス料を要求するために、先回りして出願するような「悪意」が認められるケースです。
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3.対応の考え方:いかに「正当性」を語るか
この拒絶理由への対応は、単なるパズルのような反論ではなく、丁寧な「事情説明」が求められます。
• 該当性の否定(社会的許容性の主張) 「この言葉は現代において一般的に使われている」「特定の誰かを傷つける意図も、その可能性もない」ということを、客観的な辞書データや使用実態をもとに論証します。
• 背景事情の説明(正当な目的) なぜその商標を選んだのか、自身の事業とどのような関連性があるのかを誠実に説明します。出願の経緯に「不正な目的」がないことを立証することが、審査官の疑念を払拭する鍵となります。
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4.実務上の注意点:無理な反論は逆効果
第7号は一律の基準がないため、予測が非常に難しい領域です。 ここで注意すべきは、「無理なこじつけ」は避けるということです。公序良俗が問題になっている場面で、強引すぎる法的解釈や挑発的な反論を展開すると、かえって「社会的な妥当性を欠く出願人である」という印象を強めてしまうリスクがあります。弁理士と相談し、落とし所を慎重に見極める必要があります。
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5.まとめ
今回のポイントを整理します。
• 本質:4条1項7号は、商標が社会のモラルや公正な取引秩序に反しないかを問う「安全装置」である。
• 対応の基本:感情的にならず、出願の経緯とビジネス上の正当性を客観的に説明し、審査官の理解を得ること。
この壁を乗り越えることは、そのブランドが「社会に認められた公認のブランド」としての証明を得ることに他なりません。
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