商標:拒絶査定不服審判(第8回)
第8回 良い商標ほど「説明しすぎない」
~ブランドになる名前と、説明だけで終わる名前の違い~
前回は、審判でも拒絶査定が覆りにくい商標には共通点があることをご紹介しました。
その多くは、商品の品質やサービスの内容を、そのまま表した名称でした。
では、商標として優れた名前とは、どのような名前なのでしょうか。
今回は、「良い商標の選び方」という視点から考えてみたいと思います。
分かりやすい名前が、必ずしも良い商標ではない
新商品や新サービスの名前を考えるとき、多くの企業は「分かりやすさ」を重視します。
例えば、
「安心クリーニング」「新鮮野菜市場」「激安リフォーム」「おいしい食パン」
このような名前なら、商品やサービスの内容がすぐに伝わります。確かに、広告のキャッチコピーとしては優れています。
しかし、商標という視点で見ると、少し事情が変わります。
これらの言葉は、他社も普通に使いたい言葉だからです。
つまり、「説明」としては優秀でも、「商標」としては弱い場合が少なくありません。
ブランドは「説明」ではなく「印象」で記憶される
皆さんは、有名なブランド名を思い浮かべてみてください。その名前だけで商品の内容が分かるでしょうか。必ずしもそうではありません。
ブランドは、最初から商品の説明をしているわけではなく、その会社の商品やサービスを使った経験を通じて、少しずつ意味が与えられていくものです。
例えば、新しく耳にした造語であっても、品質やサービスが優れていれば、その言葉は次第にブランドとして認識されるようになります。
つまり、ブランドとは「言葉そのもの」ではなく、「言葉に積み重ねられた信頼」なのです。
説明はキャッチコピーに任せればよい
ここで、経営者の皆様にぜひ知っていただきたい考え方があります。商品の特徴は、必ずしも商標で説明する必要はありません。
例えば、「安心」「高品質」「創業百年」「国産素材」
こうした魅力は、広告やパンフレット、ホームページで十分に伝えることができます。一方、商標は「この会社の商品だ」と識別する役割を担います。
つまり、商品の説明はキャッチコピーに任せ、商標はブランドとして育てる。この役割分担を意識することが、強いブランドづくりの第一歩になります。
少しだけ「ひねる」ことが大切
登録しやすい商標には、ある共通点があります。それは、「少しだけ独自性がある」ということです。
もちろん、意味が全く分からない名前が良いというわけではありません。既存の言葉を少し工夫して組み合わせたり、新しい造語を考えたり、独自のネーミングにしたりするだけでも、商標としての特徴は大きく変わります。
実際、長く愛されているブランドには、このような工夫が数多く見られます。
「覚えやすい」「呼びやすい」「他社と区別しやすい」
こうした要素を備えた商標は、登録されやすいだけでなく、ブランドとしても育ちやすいのです。
「検索される名前」も重要な時代
現在では、多くのお客様がインターネットで商品やサービスを検索します。
そのため、ネーミングには「検索しやすさ」という新しい視点も必要になっています。
ありふれた言葉だけでは、多数の検索結果に埋もれてしまうことがあります。
一方、独自性のある名称であれば、検索結果でも見つけてもらいやすくなります。
つまり、独自性は商標登録だけでなく、インターネット時代のブランド戦略にも役立つのです。
良い商標は、会社とともに成長する
商標は、出願した瞬間に価値が生まれるものではありません。商品やサービスが評価されるにつれて、その名前にも信頼や評価が積み重なっていきます。
だからこそ、長く使い続けられる名前を選ぶことが重要です。
「今の商品の説明」だけを考えるのではなく、「10年後、20年後も会社の顔として使い続けられるか。」そんな視点で商標を考えると、ネーミングの考え方も変わってくるのではないでしょうか。
おわりに
商標は、商品の説明をするための言葉ではありません。
自社の商品やサービスを他社と区別し、信頼を積み重ねていくための「ブランドの名前」です。
分かりやすさも大切ですが、それだけを追い求めると、登録が難しくなったり、他社との差別化ができなくなったりすることがあります。
少しだけ独自性を持たせる。そして、その名前に会社の信用を積み重ねていく。
それが、長く愛されるブランドへの第一歩です。
次回は、「出願前の商標調査は本当に必要なのか」をテーマに、商標調査を行うメリットと、調査を怠った場合に起こり得るリスクについてご紹介します。