水際対策第6回:水際対策における海外での知的財産保護

第6回: 水際対策における海外での知的財産保護
 グローバル市場に進出する中小企業にとって、知的財産の保護は事業を成功させる上で重要な要素です。特に、水際対策を強化することで、模倣品や侵害品が市場に出回るのを未然に防ぐことが可能です。本稿では、主要国の知的財産保護制度の違い、水際対策の観点からの商標登録やデザイン登録の重要性、さらに海外での権利侵害への対応について解説します。
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1. 主要国の知的財産保護制度と水際対策の違い
 知的財産保護制度は国ごとに異なり、それぞれ独自のルールと手続きが存在します。以下では、水際対策に焦点を当てた主要国の特徴を紹介します。
日本
 • 特許: 出願から登録までの審査が厳格で、高度な発明に適した保護制度。税関での模倣品の差止申請が可能。
 • 商標: 商品やサービスの名称、ロゴ、マークなどを保護。商標権に基づく輸入差止措置が実施可能。
 • デザイン: 意匠法に基づき、商品の外観や形状を登録可能。税関にデザイン権を登録し、侵害品の輸入を防ぐ。
 • 特徴: 税関の協力を得て模倣品の水際措置を強化可能。
アメリカ
 • 特許: "先願主義"を採用。輸入侵害品に対する差止命令が発効可能。
 • 商標: 先使用主義を採用。税関を通じて商標権侵害品の差止が可能。
 • デザイン: デザイン特許制度で保護可能。模倣品に対する行政的な対応が可能。
 • 特徴: 税関や貿易機関と連携して水際対策を実施。
欧州連合(EU
 • 特許: ヨーロッパ特許庁(EPO)で単一出願が可能。ただし、特許権は国別に管理される。
 • 商標: EU商標(EUTM)で27加盟国における商標保護が一括取得可能。加盟国の税関で侵害品の輸入差止を申請可能。
 • デザイン: 登録デザインと未登録デザインの2種類が存在。輸入差止措置を利用可能。
 • 特徴: 各国の税関が模倣品対策に積極的。
中国
 • 特許: 出願から登録までのスピードが速いが、模倣対策が必須。税関に模倣品の差止申請が可能。
 • 商標: 先願主義を採用。商標権に基づく模倣品の水際措置が強力。
 • デザイン: デザイン特許として外観を保護可能。税関での監視が重要。
 • 特徴: 模倣品対策が非常に重要で、現地での税関登録が有効。
その他の地域
 • 各国ごとに独自の制度があり、特許協力条約(PCT)やマドリッド協定を利用して出願を簡略化可能。また、税関での権利登録による輸入差止措置が有効な場合が多い。
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2. 水際対策としての商標登録・デザイン登録の重要性
商標登録の重要性
 商標は、企業や商品のブランドイメージを構築する上で重要な資産です。水際対策の観点から、以下の点が特に重要です。
1. 侵害品の輸入阻止: 商標を税関に登録することで、侵害品が国内市場に流入するのを防止。
2. 法的権利の証明: 登録済み商標は、税関での差止措置を迅速に実行するための証拠となる。
3. 模倣品対策の効率化: 商標登録があれば、模倣品の流通阻止が容易になる。


デザイン登録の重要性
 デザイン登録は、製品の外観や特徴的な形状を保護するための手段です。水際対策の観点からは以下が重要です。
1. 輸入段階での差止: デザイン権を税関に登録し、侵害品の輸入を阻止。
2. 模倣品防止: 独自性のあるデザインを守り、他社が同じデザインを利用するのを防ぐ。
3. ブランド価値の維持: デザインもブランドの一部として認識されるため、侵害品の流通を防ぐことが重要。
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3. 水際対策としての権利侵害対応
 水際での権利侵害を防ぐためには、事前の準備と迅速な対応が不可欠です。以下に具体的な対応策を挙げます。
1. 税関での権利登録
 • 模倣品差止申請: 税関に商標権やデザイン権を登録し、模倣品や侵害品の輸入を阻止。
 • 定期的な更新: 登録情報を定期的に更新し、税関が正確な情報を持つようにする。
2. 侵害発見時の初期対応
 • 証拠収集: 写真、購入レシート、販売元情報など、侵害品の証拠を収集。
 • 税関への通報: 税関に侵害品の発見を報告し、差止措置を要請。
3. 法的措置
 • 差止命令: 裁判所を通じて販売停止を求める。
 • 損害賠償請求: 侵害による経済的損害の補償を求める。
4. 行政措置
 • 関税当局との連携: 模倣品の輸入を差し止めるため、現地行政機関と協力。
5. 和解や交渉
 • 友好的解決: 相手側と和解やライセンス契約を締結する場合もある。
 • 交渉: 法的手続き前に交渉で解決を図る。
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まとめ
 中小企業が海外で事業を展開する際には、水際対策としての知的財産保護が成功の鍵を握ります。各国の制度を理解し、商標やデザインの登録を適切に行うことで、模倣リスクを最小限に抑えることができます。また、侵害が発生した場合には、税関や関係機関と連携して迅速に対応し、法的権利を主張することが重要です。
 今後も貴社の海外進出がスムーズに進むよう、専門家の助言を活用しながら適切な水際対策を構築してください。

2025年03月17日